001:ボーナス・トラック
- 作者: 越谷オサム
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2004/12/21
- メディア: 単行本
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こいつ、なかなかいい奴だ、幽霊であることを除いては。ハンバーガー屋で働く僕は、ひき逃げを目撃したため、死んだ若者の幽霊にまとわりつかれ、犯人探しに巻き込まれる。ユーモアホラーの快作! (新潮社HPより)
第16回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作。上記紹介文からもわかるとおり、筋だけを見れば、よくある手垢のついた話です。ですが、幽霊であるところの亮太と彼に憑かれた草野*1の掛け合いが抜群によく、それだけで最後まで読めました。
正直、冒頭100ページぐらいまでは「失敗した」と思いながらページ繰っていたのですよね。でも草野が亮太の存在をみとめてからは、そのスピードの分速が跳ね上がりました。あきらかにペースが変わりました。ええ。
冒頭の読書がスローペースになった理由はだいたい100個くらいあって*2、まず地の文章が読みにくい。自然体の文章を作為的に書いた感じがします。作為的に書いてもいいけど、その形跡は消さないとね。ひとことで言うと舞城を劣化させたイメージ。
過剰に婉曲な表現や物事に対する解釈のつけ方のおかしさも目立ちました。登場人物をこえて作者自身の視野が狭さがちらついて、うまく作品に入り込めなかったとです。
あと上記の理由ほどではないけど、気になったのが視点の問題。三人称の神視点*3と亮太の一人称視点を使ってるんですけど、その書き分けは必要だったのかしらん? 亮太の視点だけにするか、完全に一人称視点を登場人物ごとで切り替えるというようにした方がすっきりしたんじゃね? というのも、両者の書き分けがさほどなくて、視点を変える理由がどうも見えてこないのさ。不満はそんなもん。
プロレスゲームが作品のキーのひとつになっていて、僕はこれに関するやりとりが好きなんだけど、
草野は四発目のパンチを両腕でブロックし、トーキックからスタナーへの流れるような動きで亮太をマットに這いつくばらせた。(本文より)
プロレス知らん人にはなんのこっちゃだろうなぁ。せめて多少の説明とか入れようよ。思ってる以上に雪崩式のフランケンシュタイナーって一般的な言葉じゃないんですからね。まぁ・・・プロレスファンの方はより楽しめる作品なんですよーってことでどうかひとつ。
あと自分の葬式にきた親戚の車に乗り込んだところなんかもよくて、場面場面の「点」としては十分面白いんですよね。読了感もいいし。ラストのさわやかさはかなりのものでしょう。ただうまく「線」になっていないだけで、それはこれから書いていく中で十分補われていく技量なんだから、これからに期待していますよ。作家として十分若い年齢*4だしね。