地力の高さを証明する作品集

とり残されて (文春文庫)

とり残されて (文春文庫)

勤め先の小学校で、ヒロインは「あそぼ」とささやく子供の幻に出会う。そんな折、校内プールに女性の死体が…。その謎にせまる表題作ほか、夢の「場所」捜しから始まる内面の旅を描いて名作の聞こえ高い「たった一人」など六篇を収録。巧みな伏線、鮮やかな舞台設定。清新にして熟達の筆致をおたのしみください。(「BOOK」データベースより)

表紙イラストで敬遠してしまうなぁ。
SFテイストな短編集。読ませる力はあるけど、割と軽めの作品かなぁと思っていました。だけど読み終えるとそれぞれのストーリーが持つテーマにハッとさせられ、筆者がそれを明らかにする際の巧さに唸らされます。
個人的に好きだったのは「おたすけぶち」とラストの中篇「たった一人」。特に後者はすばらしい。
ただ筆者はストーリーテラーとしての馬力がありすぎて、荷が軽いと多少の物足りなさを感じてしまいます。彼女の真骨頂は大量の荷物を牽引しながら、読者にはその重さをまったく感じさせない透過性にあるのではないかと感じました。
すばらしい短編を読ませ、それ以上に長編での巧さを予感させる自力の高さを証明する作品集でした。