006:切断都市

切断都市

切断都市

道頓堀川を流れる、女性の胴体だけの死体遺棄事件が発生。その後に連続するバラバラ死体遺棄事件の現場は、全て大阪という都市の愚行に関連する場所だった。捜査本部や世論の驚愕を狙って、犯行動機の詳細を語るホームページまでが登場。大阪全てが劇場型犯罪の舞台と化していく中で、キャリアでもノンキャリアでもない<準キャリア>の梧桐渉警部が犯人に迫る新社会派本格推理。(実業之日本社HPより)

巧。まず都市の切断と人体の切断の繋ぎ方には目を見張るものがあります。そして「切断」の裏にある「結合」の持つ意味のおぞましさには思わず戦慄。ある種悪魔的発想。メイントリックの起点となる部分が突発だったので、素直に驚けなかった部分はありますが、実に見事な書き回しでした。

ストーリーの進め方の母体は、ステレオタイプの警察小説であまり面白みはありません。それはあくまで手段であるので、別段かまわないのですが、途中でマスコミに対する批判とか混ぜちゃってます。話の中ごろから劇場型犯罪へ展開したことには、それが目的でもあったのでしょうけど、そのせいでメインテーマであろう「都市の愚行」へのフォーカスがいささかブレてしまってる気がします。「事件」に関わるさまざまなオブジェクト*1がそれぞれ抱えている問題をまとめてバッサリやりたかったんでしょうね。見方によると今回の裏のメインテーマとも考えることもできるので、そこは個々の捉え方次第なのかな。

あとは主人公のキャラ設定があまり物語に活かされていないのも気になりました。「準キャリア」という設定がキャリア・ノンキャリアのどちらからも線を引かれて単独で事件に挑むスタイルを作るためだけに置かれているに過ぎないし、「数学理論を犯罪者の心理分析に適用する」云々の設定が事件の解決にまったく関わりを持っていません。あれかしら? 横山秀夫みたいな話が書きたかったのかな。上っ張りだけに特殊な設定を置くと、読者が肩透かしを食ってしまうのでやめてください。

登場人物の人間性は見えてこないところはあります。でも人間が書けていなくても、事件が書けているので全然問題ありません。本格ミステリなんだから事件が書けてりゃ万事OK。あーでも「新社会派本格ミステリ」とか言ってるなぁ。じゃあもうちょっと登場人物の掘り下げが欲しかったかも。特にヒロインな。あの薄さはひどすぎる。

*1:「警察」、「マスコミ」、「一般市民」