いよいよ壁は無くなるぞ

パーフェクト・ブルー (創元推理文庫)

パーフェクト・ブルー (創元推理文庫)

高校野球界のスーパースターがガソリンを全身にかけられ焼死するというショッキングな事件が起こった。たまたま事件現場に行き合わせた弟の進也と、蓮見探偵事務所の調査員・加代子、そして俺――元警察犬のマサは、真相究明に乗り出す。社会的テーマと卓抜な人物描写で今日を予感させる鬼才・宮部みゆきの記念すべき爽快なデビュー長編。(東京創元社HPより)

僕が宮部みゆきを読んでいないと不思議がられるのですが、それは僕が恩田陸が好きで宮部を敵視してるから、ということでは全然無くて、単にタイミングの問題。本を読む時にも大切なことはやっぱりタイミングだと思うけど。思うけど。思うけど。なんちてな。

どうも恩田陸宮部みゆき小島麻由美椎名林檎という対比をしたがる傾向が巷間には存在しているようだけど、大きなお世話です。僕が前者のみを嗜好していることを不思議がるのも余計です。

そんなことはどうでもいいや。タイミングがあったので宮部買ったんです。ほら、僕って基本的に創元社好きじゃん? (しらねぇよ) 創元社デビュー作家のレベルの高さを目の当たりにしてるわけですよ。その僕が読むんだから、生半可な作品じゃ満足しないよ? 

はー。デビュー作からして堂々とした語り口。なにより、掴みが巧いですね。話のメインとなる事件を「甲子園の有名人が焼殺される」というショッキングなものにすることで、ぐっと興味を引きつけられますからね。読み始めてからも、ページを繰る手が止まらなくなりました。生半可じゃなかった。

リーダビリティも然ることながら、ショッキングな始点に対して、きちんと理由付けのなされた終点を用意し、物語を破綻無く収束させている点は見事です。当然なことだけど、意外にそれができてない作品は多いですから。デビュー作だけに正攻法で書かれているから、結末のネタ割れをしやすいけど、サプライズを狙うタイプの作家ではないので、あまり気にしなくていいのかなと思います。全体的にあっさりしていて読みやすいのですが、裏を返せば深みのない話ということになります。そのあたりは後続の作品に期待しましょうかねぇ。

残酷さや悲しみに手抜きがないというのはすばらしいですね。そこを徹底しているからこそ、やさしさや暖かさが美しく映えるのです。そのコントラストを抑えてるあたり、並みの新人(当時)ではないな。くそう。(くそう?)