非日常的設定の日常系

安楽椅子探偵アーチー (創元推理文庫)

安楽椅子探偵アーチー (創元推理文庫)

これはアイディアを思いついた時点で勝ちだと思います。古今東西安楽椅子探偵が登場する作品は数多あれど、文字通り「安楽椅子」が探偵の作品を書いてしまう作家がいようとは。しかも一歩間違えればバカミスになりかねないこの設定を、こんなに肌触りの優しい作品に仕上げてくるあたり、松尾由美おそるべし。ところどころの論理の飛躍もファンタジーな設定に包むことで、許容外の逸脱を回避しており、そのあたりにも筆者の巧さを感じます。
辛辣な毒もはさみながらも基本的にやさしい話を、小学五年生の衛の視点を使ってストーリーテリングしているので、ジュブナイルミステリとしても書けそうな作品だなと思います。是非ともミステリーランドあたりで続編を書いていただきたいところですが、執筆作家のリストに挙がっていないのでそれは無理な注文のようです。至極残念。
でも『ミステリーズ!』で本シリーズの連載が始まった*1ので、来年末くらいには新作を拝読できるのではないでしょうか。今から楽しみです。

*1:そのタイミングにあわせての文庫化だとは思いますが