かなしきメロス

セリヌンティウスの舟 (カッパノベルス)

セリヌンティウスの舟 (カッパノベルス)

地力の高さを感じました。まず何と言ってもシチュエーションの作り方が巧いです*1。ダイビング中の漂流という特殊な経験を共にした仲間であるからこそ生まれる謎を、その彼らならではのロジックで究明していく過程にはキャリア3年の作家とは思えないほどの安定感が感じられます。登場人物の心理(生理な感覚や人情といった部分)の織り込み方も素晴らしい。物語を現実的にするだけでなく、構成の仕掛けとしても活きていますからね。
難点を挙げるなら、動機うんぬんに関してですね。これは前回*2同様、釈然としないし納得もしたくない。特殊なシチュエーションにやや負けてる感ありです。このあたりが無理なく消化されたら、ものすごい傑作になるんじゃないでしょうか。
いや今の状態でも十分傑作なんですけどね。タイトルにも表されていますけど、物語のテーマとして『走れメロス』の使われ方には目を見張るものがありますよ。なんにせよ、2作続けて面白い作品を読ませていただきました。『BG、あるいは死せるカイニス』については忘れてあげます(ひどい)。

*1:これは言及するのも無粋かもしれません

*2:『扉は閉ざされたまま』