おとーさんおとーさん

魔王

魔王

新境地と見せかけて、いつもの伊坂でした。以前と比べて、作品に込められたメッセージが分かりやすくなったとは思います。
表題作とその5年後を描いた『呼吸』*1が収録されているんですが、このシリーズって続けていくのかな? 正直なところ『魔王』が良すぎて『呼吸』が蛇足に感じたんですが……。1冊として考えると非常にバランスが悪い。
『呼吸』は、これはこれでいいと思うし、まぁ話としては繋がっているわけですから、1冊になってても問題ないんですけど、別に『魔王』で説明されていない部分を『呼吸』で補足してるってわけじゃないんですよね。両者が揃う事で1つの作品として物語が集約されるってことでもないし、どうしても『呼吸』が中途半端な感じに映ります。だけど、これが『魔王』を「起」とした物語の「承」部分ってことなら話は別。ものすごいしっくりきます。この話には続きがあるのかなと思ったのは、そのためです。
重いテーマを軽やか描く筆力は健在だし、登場人物の魅力的(特にアンダソン)なので個々の作品としてはすごく楽しめるのは鉄板。安心して購入できます。

*1:ともに『エソラ』に掲載