小佐内さん萌えー

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

小鳩くんと小佐内さんは恋愛関係にも依存関係にもないが、互恵関係を持つ高校1年生。今日もふたりは手に手を取って清く慎ましい小市民を目指す。それなのに、今日もふたりの前にはおかしな謎が現れる。
学校内で消えたポシェット、意図不明の2枚の絵、おいしいココアの謎、テスト最中に割れた小瓶、盗まれた自転車。名探偵面をして目立ちたくない、地味に生きてゆきたいと願う小鳩くんは、果たして空にひっそりと輝くあの小市民の星をつかみ取ることができるのか?(東京創元社HP)

物語として大変面白く読めたので、ミステリ部分の弱さには目を瞑ろうと思います。テンションが高すぎないのがいいですね。かと言ってノリが悪いわけでもない。そのあたりに筆者の巧さを感じます。

「小市民」を目指す主人公、小鳩常悟朗。物語に出てくる探偵は、現実においては疎まれることがほとんどで、好意を持たれることなどはごく少数にすぎない。彼は自らの経験から探偵役であることに絶望し、そこからの脱却を図ろうとします。無能で、周囲にとって適度な影響しか及ぼさない存在へ。つまり本作は、軽やかな足取りで描かれた青春ミステリと見せかけて、既存の探偵小説に対する痛烈なアンチテーゼを含んだ哲学的作品だったのです!

なんつって。なんつって。そこから簡単に脱却できないから青春なんだよねぇ。(うっとり)

日常のささやかな出来事から「謎」を拾ってきちゃうんですよね、やめたいでもついついやっちゃう的な迷走がたまらない。「見方を変えさえすれば、何だって面白くなる」と言って、日常に潜む謎を楽しむのは猫丸先輩ですが、先輩の持論を地で行っちゃってるんだから、こりゃどう転んでも名探偵だよ、小鳩くん。でも「そういうもんだからしょうがない」って諦めずに、己の運命(大袈裟)に立ち向かおうという姿勢は好感が持てます。

小鳩くんと互助関係にある小佐内さんが抜け出そうとしているトンネルもなかなか根深くてよろしい。やっぱり人間はギャップに弱いからね。


彼らは自分の嫌な部分を押さえ込み、「小市民」を目指しています。それは決して自然な形の自分ではありません。彼らはこれから、「自然な自分であること」と「短所を強制する」ことに巧く折り合いをつけて、ひとつひとつ大人になっていくでしょう。続編の刊行も決定されたこともあり、彼らのこれからの成長を見るのが楽しみです。


「三つ子の魂百まで」を見るのも、それはそれで楽しみではあります。ふたりして「またやっちゃった」とうなだれる姿もまたおかし。(鬼)